Christmas Call





大広間の裏側にあるあまり人に知られていない廊下に、
一人の少女が立っていた。

月の光を反射して青白く光る雪が、窓から外を眺める彼女の顔を照らす。
ふいに彼女は左手を高く上げると、ぱちん、と指を鳴らした。
瞬間、廊下の端から端までのランプが、いっせいに光をなくした。

認めたくはないが、疲れているのだろうか。
昔の思いに、心が囚われる。

『、お前にホグワーツ・ナイトを任せたい』

深い緑のローブをはためかせる彼と、千年以上も前に交わした約束ともつかぬ契約。
いや、きっと約束だったのだろう。
辛くなった時はやめてもいいと、
いつでも逃げ道を用意してくれていたのはあの人なのだから。
目を閉じれば、いつでも微笑む彼ら。


「ゴドリック・グリフィンドール」
勇気を、くれた人。

「ヘルガ・ハッフルパフ」
努力することを、教えてくれた人。

「ロウェナ・レイブンクロー」
知識を、授けてくれた人。

「サラザール・・・・・・」
力と、狡猾さと、そして、愛を与えてくれた人。


彼らがいなくなってから、千年以上もたって。
、と呼んでくれる人が出来た。
ホグワーツ・ナイトの、ではなくて。
・として、自分を見てくれる人達。


そして、その中の一人の、自分がよく見知った人物の気配が近づいてくる。






こつ、こつ、と。
自分の靴音が、廊下に響き渡る。

つい先ほどまで、他の２校の代表生徒達を交えてクリスマスパーティーが行われていた
大広間から少し離れたここは、その片付けをする騒ぎも聞こえない。
立ち止まって耳を澄ませば、
さきほどから降り始めた雪が庭に降り積もる音さえ聞こえてきそうな静寂の中。
誰もいない廊下を、一人の生徒を捜すために歩いている。
この自分が、だ。

廊下の角を曲がれば、目的の人物がぼんやりとした顔で、窓の外を眺めていた。
窓枠にかけた手や、ローブの隙間から見える白い包帯。
顔色も、心なしかよくない。

「ミス・」

ゆっくりと、こちらに向き直った彼女は、ただ微笑むだけ。
最初に感じた時と同じ、儚げな笑顔。

「マダム・ポンフリーには？」

何の脈絡もない言葉で問うても、自分の先ほどの目線から理解したのだろう。
苦笑のような笑みを浮かべて、首を横に振る。

「彼女に言ったら、それこそベッドに縛り付けられてしまいますよ」

言葉と一緒に肩をすくめて、包帯が巻かれた右手の上に反対の手をそっと添える。

「利き手じゃないですから、そんなに不便なこともありませんし、それに」

スネイプ先生がいらっしゃいますから、と笑顔とともにそう付け加えて、また視線を庭へと戻す。
その瞳に映るのは、庭に降り積もる雪ではなかったけれど。

ホグワーツナイト、・。
ホグワーツを、ホグワーツにいるすべてのものを守る者。
自分を犠牲にしても、ホグワーツに関するものすべてのものに傷をつけることを許さない。

ホグワーツ最強の守護者。

そのため、敵は少なくなく。
今年に入り、彼女は何者かに数回、命を狙われている。
ハリー・ポッターを守る彼女が、邪魔なのだろう。
結果、彼女の右腕に広範囲の傷を負わせることに成功した。
それでも重症にならず、マダムポンフリーにベットに縛り付けられずに済んでいるのは、
彼女の実力ゆえか。

ダンブルドアと校長室で話し込んでいた時、
突然、腕を血だらけにした彼女が入ってきた時にはさすがの自分も驚いたが。

「ミス・・・・・・・いや」

それぞれに自らの力の欠片を与え、彼女に、ホグワーツ・ナイトの任を課せた四人は、
何を思い、何を考え、そして何を期待したのだろうか。
彼女なら、絶対にホグワーツを守ってくれると、信じたのだろうか。
しかし、なにかもっと、違う思いがあったのだとスネイプは思う。
千年が経ち、彼らがいない今となっては
彼女自信が当時を話さない限り、確かめる術はないけれど。

「」

呟いて、彼女との距離を縮めて。
腕を広げて、その中に閉じ込めてみる。

「どうしました？」
「校長からの命令だ」

腕の中の彼女が、少しだけ緊張したのがわかった。


「『今日だけは、クリスマスだけは―――』」

「クリスマス、だけは？」


だから、少しだけ、腕の力を強くして。


「『ホグワーツ・ナイトではなく、ただの・に戻れ』と」


いつも、ホグワーツ・ナイトとして神経を張り巡らせている貴女への、
本当にささやかな、みんなからのプレゼント。


「今日は、誰も邪魔できない」


耳元で、呟けば。


「味なことをしてくれますね、アルバス達も」


そう言って、くすりと笑いを漏らした彼女を、もう一度、しっかり抱きしめた。
誰を邪魔できないのかは、言わなくても分ったようだ。


「Marry Christmas」


彼女が呟いた祈りにもにた感謝の言葉は、二人の口づけとともに雪の中へ消えた。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青蘭　 　

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