ハッピー ハロウィン ハプニング

第2章
〜スペシャル・ゲスト〜


 ハロウィンの早朝、私たち4人は手分けして、寮生全員にパーティーの招待状を配った。
 そしてその日の昼休みと放課後を、談話室の飾り付けに費やした。

 大広間での宴会が終わると、私たちは1番に寮に戻り、あらかじめ調達しておいたお菓子やジュースを談話室のテーブルに並べた。
 しばらくすると、お祭り好きのグリフィンドール生全員がそこに集まってきた。

 「いったい今度は、何を始めるつもりなの?あなた達」
 リリーがたしなめるような口調で言ったけれど、その目は他の皆と同様に、何かを期待して輝いていたよ。

 「やあやあ、頼もしき我がグリフィンドールの同胞諸君!今日はボクたちの呼びかけにお集まりいただき、まことに嬉しい限りだ!」
 シリウスがもったいぶった演説で仕切り始めると、皆いっせいに歓声や口笛ではやしたてた。

 「えーそれでは、パーティーを始める前に、ここにもう一人、スペシャル・ゲストを迎えたいと思います!皆すまないけど、少し後ろに下がっていてくれ」

 シリウスがそう説明すると、私たちは皆のざわめきを背に、例の儀式に取り掛かった。

 本に書かれていた材料を次々に暖炉に放り込むと、ジェームズが杖を手に進み出て、炎に向かって呪文を唱えた。

 「霊よ、お帰りなさい!霊よ、我らに姿をお見せください!」

 次の瞬間、暖炉の火が青白い光の球に変わったかと思うと、いきなり弾けて部屋中に飛び散った。
 その光の粒子は、始めは銀河系のような形でゆっくりと部屋の中を廻りながら天井に向かって昇っていった。それから次第に速度を速めながら、小さな竜巻の形にまとまっていった。
 すると竜巻の中から人間の手足が伸びてきて、回転を続けながら人間の形に近づいていった。まもなくその人物は、マントをはためかせ、優雅に回転しながら暖炉の前に降り立ったんだ。

 「やあ、グリフィンドール寮の諸君!今夜はお招きありがとう!」
 透きとおったゴーストは、にっこり笑って挨拶してくれたが、皆は驚いて呆然と彼を見つめるばかりだった。

 「どうしたんだね?君たち。さては、私が誰だかわからないのかな?」
 その人は、ゴーストとは思えないほど生き生きとした目で、私たちを見回した。
 ようやく我に返ったジェームズが、前に進み出て挨拶をした。

 「ようこそおいでくださいました。ゴドリック・グリフィンドール先生!」

 そう、私たち4人は、炎に放り込んだ木片に(これは材料の一つなんだ)偉大な創設者の名前を刻んでおいたんだよ。
 ようやく状況を飲み込んだ寮生たちは、一斉に歓声を上げた。特に女生徒たちは黄色い声で大騒ぎしていたよ。グリフィンドールは、とてもハンサムな人だったんだ。

 「ありがとう、ジェームズ。そして私のかわいい生徒諸君、君たちと話すことができて、とても嬉しいよ!」
 
 皆は、この偉大な魔法使いに、もう一度熱狂的な拍手を送った。

 「あの先生、失礼かもしれませんが、一つお聞きしてもいいですか?」

 「なんだい?リリー」

 「私、本で読んだんですけど、先生が亡くなったのは、その・・・もっとお歳をめしてからだったと思うのですが・・・」

 「ああ、私の姿を見て驚いているんだね。なあに、老人の姿では、この宴会の席にふさわしくないと思ったんでね。君たちの年齢にちょいと合わせてみたのさ!」
 グリフィンドールがウインクしてそう答えると、またもや女生徒たちの間からため息がもれた。

 「ど・・どうして、リリーとジェームズの名前を知ってるの?」
 今度はピーターが興奮気味に尋ねた。

 「私はハロウィンには、必ずホグワーツへやってきて、君たちの成長ぶりを見て回ることにしているのだよ。だから君たちの名前は皆知っている」

 「そうそう、君はさっき私のことを、恐ろしく歳をとって怖い顔をした不気味な老人に違いないとうわさしていたっけなあ。ピーター君!
 私は少々傷ついたんで、その時君のことをくすぐったり蹴飛ばしたりしてやったんだが、君は全然気がついてくれなかったよ」

 皆はそれを聞いて大いにウケていたけど、ピーターはまるで彼のほうが幽霊になってしまったように真っ青になっていた。

 「先生、どうぞこちらにお座りください。かぼちゃのパイはいかがですか?」

 「ありがとう。せっかくだが、私には食べ物は必要ないのだよ。・・だが、何やら美味しそうな物がたくさん並んでいるね。どれも私が生きていた時代には無かった物ばかりのようだ!これはひとつ、味見をしてみたいものだな・・ふ〜む・・・」
 先生は思案顔で、再び私たちの顔を見回した。

 「そこの君!そう、シリウス、君だ。ちょっとこちらに来てくれないか?」

 「・・・はい」

 「シリウス、すまないが少しの間、君の体を拝借したいのだが。どうだろう、許してもらえないかね?見たところ、君の体が一番頑丈そうなのでね」

 「なんだって!?」
 シリウスはグリフィンドールを見上げて叫んだ。
 彼は真っ青になり、すがるような目で私たちを見つめたが、そこには何十対もの目が彼に向かってこう訴えていたんだ。「シリウス、観念していう事を聞け!」ってね。

 「チェッ!・・・わかったよ。もう、どうにでもしてくれってんだ!」
 彼がやけになって叫ぶと、先生はニンマリと笑って頷いた。

 「では、ここに座ってくれたまえ。・・そうだ、ありがとう。シリウス、それでは失礼するよ!」
 そういうとゴーストは、シリウスの上に重なるように、イスに座り込んだ。するとそこには、透きとおっていない実物のグリフィンドールが現れたんだ。

 「シリウス!シリウスはどうなったの!?」
 ジェームズが慌てて叫んだ。

 「ははは、大丈夫だよ、ジェームズ。私がこの体から出れば、君の友達はすぐに元の彼に戻るよ」
 
 先生がそう言ったので、私たちは胸をなでおろした。改めてよく見ると、グリフィンドールはどこか印象がシリウスに似ていた。だから私たちの感じた違和感は、すぐに吹き飛んでしまったんだ。

 「いやー!やっぱり生身の体は、いいもんだなあ!空気すら美味しく感じるよ」
 先生は大きく深呼吸すると、座ったまま足踏みをしたり、テーブルを触ったりして、物に触れる感触を楽しんでいるようだった。

 「先生、飲み物はいかがですか?」
 誰かが、先生にバタービールをすすめた。

 「ありがとう、遠慮なく頂くよ」
 そう言うと、彼は豪快にそれを飲み始めた。そしていっきに飲み干すと、空ビンをテーブルの上にドンと置き、
 「ックーッ!!」
 と、唸った。

 「どうです、美味しいでしょ?」
 私が自信を持って尋ねると、彼は一言、こう叫んだんだ。

 「甘い!!」

 どうもグリフィンドールは、甘党ではないようだった。

 「あー・・・いや、てっきりこれは、ビールだと思っていたのでね。美味しいとは思うが、その・・・これはやはり、いい大人が飲むものではないようだな、うん!」

 「あの・・先生、紅茶でも入れましょうか?」
 リリーが尋ねた。

 「ああ、いや、結構だよ。ありがとう、リリー。実はさっき、キッチンで上等のスコッチを見かけたんだ。それをちょいと失敬するとしよう」
 そう言って彼が(シリウスの)杖を一振りすると、テーブルの上にウィスキーのビンと氷の入ったグラスが現れた。
 先生はグラスに注いだお酒を一口含むと、またもや
 「クーッツ!」
 と唸り、今度はニッコリ笑って「うまい!」と、叫んだ。
  
 「さあ、君たちもボーっと突っ立っていないで、一緒に宴会を楽しもうじゃないか!どうせこの2次会に備えて、胃袋にスペースを残してきたのだろう?」
 先生に促されて、ようやく皆も席につき、にぎやかに騒ぎ始めた。

 「何だか、あそこだけ『三本の箒』状態だね」

 ジェームズが私にそっと耳打ちした。
 


〜第3章へつづく〜


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